現代日本を代表する芸術家たちとの協働によって制作された宮沢賢治童話シリーズの後半。絵本には原作を原文のとおりに収載、CDはその朗読と音楽で構成されています。 |
絵本: 菅 木志雄 |
三十年にわたる塞外の戦からようやく帰還した老将軍が自分のなかの軍人を消していくお話。雅楽ふうのヘテロフォニイ(不協和音階)を盛った音楽の意図を作曲の新実徳英氏は、中国が舞台の話だからということではないが、アジア的な旋律、リズムのずれ、そしてヨーロッパ的ではないハーモニーによって、活力のある立体的な音楽をつくろうとしたと語っています。絵本はシリーズ10とともに墨の色調だけでつくられており、李禹煥氏のカオス的暗黒と菅木志雄氏の黒い木片による遊びを楽しむことができます。
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絵本: 李 禹煥 |
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絵本: 李 禹煥 |
雲見の好きなカン、ブン、ベンの仲よしトリオ。でもその友情もカン蛙の突出行為(ゴム靴を手に入れた!お嫁さんを手に入れた!)によってもろくも崩れ去ろうとしています。作曲の佐藤允彦氏は蛙の国の蛙の作曲家がつくったような音楽にしたいと、通常の楽器の他にアフリカの民族楽器、さらにはフライパンや掃除機のホースなどのたてる音もシンセサイザーにとりこんで音づくりを進めました。変わった音色と強いリズムが、蛙も人も共有する青春の苦さを陽光ふりそそぐ野原へと連れだします。
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絵本: 中西 夏之 |
やさしい樺の木(ヤマザクラ)をめぐる土神と狐の恋と破滅の物語。中西夏之氏はちょうど制作中だった一枚のペインティングのためにさまざまな角度から試作したドローイングを、絵本では横一列にならべてみたと語っています。賢治の物語にサービスして描いたものではないが、物語があることで絵のほうも活性化されたように感じるとも。音楽はクロード・ドビュッシー最晩年の三つのソナタから「フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ」と「チェロ・ソナタ」を中心に物語との共鳴を試みました。
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絵本: 赤穴 宏 |
山男は賢治童話の主役のひとりです。登場する物語によってその陰影は変化しますが、『紫紺染について』の山男がひときわ明朗、豪快だとすると、この物語はそれに次ぐものかもしれません。それでも里へ下りるときは「化けないとなぐり殺される」とつぶやくのですから、村人から排除され孤立して生きる存在であることははっきり示されています。山の妖異ともつながる山猫や山男、こうした不思議なキャラクターのいることが賢治童話の大きな特徴と魅力です。
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絵本: こどもたちの絵による |
この宝石学専門のホラふき大学士もまた実に魅力的な人物です。三晩にわたる野宿で、岩頸(がんけい)四兄弟の論争に聞きほれ、一かけの花崗岩のなかの鉱物たちのけんかを笑い、そして三晩目には大学士自らが中生代に迷いこみます。岩石の星地球の生成と、遙かな昔その地を闊歩した巨大な生きものたち、大学士のホラはこの壮大な物語を取りだし、展げてくれる大風呂敷の結び目です。
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絵本: 前川 秀樹 |
よく知られた『よだかの星』に短編二つを加えました。ことばのキュビズムとでも呼びたくなるような奇っ怪なお話『畑のへり』、それとはまったく異なって、『祭の晩』は少年と山男とのあいだに生まれる交換と交流の物語、それは交換というものの世間的等価性を遙かにはみ出した美しさ、関係性の原型とでもいうべきものを教えます。初登場の三田和代氏が三編すべてを語ります。
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